研究概要

 

太陽・太陽風から磁気圏・電離圏へのエネルギーの流れを明らかにし、物理的な予測を実現するため、その鍵となる諸現象の物理過程の解明に取り組んできました。

 

・磁気圏過渡応答の研究(1999年度~2004年度)

高緯度昼側で前触れなく突如現れる大振幅の磁気インパルス現象の生成メカニズムを解明するため、南極と北極の地上観測網と衛星観測との同時比較、ウェーブレット検出を用いた統計解析、磁気流体シミュレーションを用いた再現実験による素過程の検証など、複数の手段を組み合わせて研究を行いました。その結果、もともと太陽風にはパルス成分は存在せず、地球上流の衝撃波で2次的に生成された圧力パルスが、磁気圏境界に過渡的に生成する沿磁力線電流が磁気インパルス現象の主原因であることを明らかにしました(文献1)。

 

・ 宇宙天気予報の研究(2004年度~現在)

磁気嵐に伴って劇的な変化を示す放射線帯外帯の電子フラックスを制御する物理過程を解明し予測するため、その磁気嵐の源である太陽・太陽風構造との対応関係を調べる研究に取り組んできました。主な結果としては、磁気嵐でもコロナ質量放出に駆動されるものと、コロナホールによって駆動されるものとでは、太陽風磁場の擾乱成分が大きく異なり、後者のほうが平均的に高いレベルの放射線帯外帯電子を生成することを明らかにしました(文献2)。

 

2005年度には、NASA/GSFCのCCMCを用いた大磁気嵐の再現実験として、磁気圏の磁気流体シミュレーションと内部磁気圏の粒子シミュレーションを結合し、地上衛星観測データとの整合性や不一致を調べる研究を行うとともに、大磁気嵐の際にパイプラインに流れる地磁気誘導電流の時間周波数解析を行いました。また、2006年度には北海道陸別SuperDARN短波レーダーの立ち上げにも携わり、磁気嵐中にサブオーロラ帯に出現する高速プラズマ流の高速変動の研究と統計解析も行いました。2007年度からは、磁気嵐の宇宙天気予報を実現するため、太陽風を伝搬するコロナ質量放出の磁気流体シミュレーションを独自に開発しました。その結果、磁気嵐を引き起こすことのできる強くねじれた磁場を持つコロナ質量放出の伝搬過程を定量的に再現することに成功しました(文献3)。現在は、開発したコロナ質量放出シミュレーションを基盤として、太陽高エネルギー粒子による航空機高度での被ばく量を予測することを目標に、これまで取り組んできた太陽地球系モデリングを一本化した科研費プロジェクト「太陽高エネルギー粒子被ばく予測モデルの研究開発」を2011年度(平成23年度)から推進しています。

 

・極端宇宙天気の研究(2009年度~現在)

時間軸を過去に伸ばし、極端な宇宙天気に関する理論的な研究を進めてきました。これまでの主な結果としては、約70年間黒点の消えたマウンダーミニマム中の太陽極小期という、極端に低い太陽活動期において地球に到達する宇宙線が異常増加する太陽圏環境を明らかにしました。さらに、時間軸を億年スケールに拡張し、46億年で地球が経験しうる最も極端な宇宙環境として、近傍超新星や巨大分子雲との衝突によって地球大気が受ける影響を見積もることで、地球史上最大級のイベントである全球凍結や大量絶滅が、最も極端な宇宙環境により駆動された可能性があることを示しました(文献4)。

 

・オーロラの高速撮像実験(2009年度~現在)

磁気圏から電離圏へのAC的なエネルギー流入で本質的な役割を果たす分散性アルフベン波の波動粒子相互作用の物理過程を明らかにするため、高感度カメラによるオーロラの地上高速撮像実験に取り組んできました。オーロラ帯に位置する、アラスカ大学ポーカーフラット実験場の山頂に秒110コマの連続観測が可能なEMCCDカメラを導入し、オーロラ爆発直前の乱流的な時間発展や、分散性アルフベン波の干渉模様などを検出することに成功しました。2011年度には、NHK番組「宇宙の渚」の協力により、秒1000コマを超える撮影も可能な高速カメラを導入し、最速で20-30 msの脈を打つ「超ULFオーロラ」を発見しました(文献5)。

 

この発見は、撮像観測の時間空間分解能を極限まで向上させた成果であり、磁気圏電離圏システムで発動する最速の非線形プラズマ波動と電子の相互作用を捉えている可能性があります。現在は、太陽活動極大期に向けて磁気嵐が多発しているため、サブオーロラ帯に位置するカナダ・アサバスカ大学の太陽地球科学観測所にEMCCDカメラを導入して観測を続けています。初期結果として、「超ULFオーロラ」と似たオーロラが時間帯によらず発見されてきており、磁気圏電離圏システムで普遍的に発動する最速の波動粒子相互作用を可視化している可能性もあるため非常に興味深いと思っています。

 


文献1: Transient response of the Earth's magnetosphere to a localized density pulse in the solar wind: Simulation of traveling convection vortices

Kataoka, R., H. Fukunishi, S. Fujita, T. Tanaka, and M. Itonaga

J. Geophys. Res., 109, A03204, doi:10.1029/2003JA010287, 2004.

 

文献2: Flux enhancement of radiation belt electrons during geomagnetic storms driven by coronal mass ejections and corotating interaction regions

Kataoka, R., and Y. Miyoshi

Space Weather, 4, S09004, doi:10.1029/2005SW000211, 2006.

 

文献3: Three-dimensional magnetohydrodynamic (MHD) modeling of the solar wind structures associated with 13 December 2006 coronal mass ejection

Kataoka, R., T. Ebisuzaki, K. Kusano, D. Shiota, S. Inoue, T. Yamamoto, and M. Tokumaru

J. Geophys. Res., 114, A10102, doi:10.1029:2009JA014167, 2009.

 

文献4: Snowball Earth events driven by a starburst of the Milky Way Galaxy 

Kataoka, R., T. Ebisuzaki, H. Miyahara, and S. Maruyama

New Astronomy, doi:10.1016/j.newast.2012.11.005, 2012.

 

文献5: Pulsating aurora beyond the ultra-low-frequency range

Kataoka, R., Y. Miyoshi, D. Hampton, T. Ishii, and H. Kozako

J. Geophys. Res., 117, A08336, doi:10.1029/2012JA017987, 2012.