人工オーロラ高速撮像の旅

2015年03月11日 14:28

フィンランド・ラップランド地方での人工オーロラ観測ドタバタ劇をメモします。プラズマの異常抵抗を生む電子の拡散スピードを横から測定するのが目的です。

・1日目 3月9日(月) イヴァロ空港マイナス2度の暖かさ。

移動の日。長い一日。イヴァロ空港からはブルーの車、左ハンドルで右にギア、オートマじゃないのか。雪道を2時間以上走ってケボ・サブアークティック・リサーチ・インスティチュートに到着。(サブマリンと一緒で北極圏の中だからサブ、らしい。サブオ ーロラ帯やサブストームとは使い方が違うのね。)飛行機の中で、アイスクリームを配っていたのにも気づかずに気絶しておいて正解だった。あと横でライオネルが2時間ずっとしゃべってくれて助かった。この、すごく長い(ギリシャまでつながっている?) というE75高速道路をひたすら2時間北上してUtsjoki(ウツヨーキ)というところまで来たら左折して、山道をくねくねとアップダウンを繰り返してケボ観測所に到着。夜の10時になっていた。暗くてよくわからないが、森に囲まれていて、起伏がある雪景色で、とても美しい敷地に見える。朝になったら湖が見えるらしい。東京の格好で来たが、おしゃれ系のブーツは滑って使い物にならない。いまはメインビルの2階から入って突き当りの1人部屋で日記を書いている。1階は食堂。ディナーの残りのラザニアをレンジで温めて頂きました。シャワーは共同。洗濯機もある。ここは暮らせる。週末から大学生18名が来るらしく、ビールの山が入口に積んである。私もパーッと飲みたい。この日、寝たのは起きてから24時間後。先週はロッキー山脈に居て、時差が7時間くらいあったのではと思う。今は時差が逆センスに7時間。朝6時に起きて、成田12時の飛行機でヘルシンキまで10時間、ヘルシンキからイバロまで1時間半。フィンエアは機内食が美味しいと思った。ヘルシンキ空港でポーツマス大学のライオネルと合流。イバロ空港で、ライオネルのボス、ギャリ―と合流。イバロのスーパーマーケットでトゥルク大のエリーナと合流。みんな初めまして。孤独な旅のはずが、賑やかなスタートになった。 

・2日目 3月10日(火)人工オーロラ発生実験1。晴れ。マイナス10度。

昨日のことをメモする朝6時。まだネットがつながらず。そして朝からトラブルは続く。日本から郵送しておいた段ボールをスノーモービルで観測所まで運んでもらう。開封。さっそく 屋根裏の現場の出入りで板に親指を挟んで負傷。それから、うっかり日本から持ってきた延長ケーブルを差してしまう事故で真っ暗に。イルカに報告してヒューズを交換してもらう。イルカに頼んで250V のACアダプタ用ケーブルを、デスクトップPC・ディスプレイ・カメラ用に3つ借りてセ ットアップを再会。何度もスノーモービルでラボと観測所をアップダウン行ったり来たり 。親指が痛いので傷テープを持ってきてもらう。太いタイラップで高い位置に三脚を固定。そうこうしているうちに、なぜかケータイだけワイヤレスにつながったことに気づく。たまったメールの中から、マイクが1500-1830 UTにヒーター実験を始める予定を再確認。明るいうちにとセットアップを急ぐ。まずは最大限フォトンを稼ぐため、レンズにはフィルタをつけないことにする。人工オーロラの方位角260度(西から10度南)と仰角30度にカメラを固定。これで今日のセッティング作業は終了。メインビルに戻る。自分の部屋でLANケーブルでノートPCのネット接続を完了。イルカが借りてくれていたIPアドレスは観測PCにセットしておいたので、メインビルからカメラを遠隔操作する。そうこうしているうちに午後になっていた。ランチは朝ごはんのパンやハムから自分でサンドイッチを作るタイプのシステムだったらしく、自動的にパスしてしまったことをエリーナに教えてもらった。そういえばポーツマス大の軍団は、せっせとランチを作っていたような気がした。こんなときのための午後3時のおやつは日本から持ってきたカレーヌードル。まったりとメールを書いて休憩。とうとう始まった1500 UT。ここ17時の夕食のタイミングでヒーター実験開始。リラックスムードのポーツマス大の連中と乱流の3D観測についておしゃべりしたかったが、すぐに観測に戻る。外はまだ明るい。私のカメラのほうはサチって何も見えない。結局光学観測が始められるのは1700-1830 UTの1時間半だけということをマイクともメールで再確認。途中で金星が視野に入り、カメラの方向がほぼ期待通りであることを確認。トロムソでは人工オーロラがばっちり出たらしい。こちらはデータは取得したが、人工オーロラが撮れたという確証はまだ何もない。フォトンが少なくぎりぎりなので、念入りに分析が必要である。ちょっと確認したくらいでは人工オーロラらしき模様は何も見えてこなかった。こちらの夜10時ごろ、日本時間の朝5時ごろ、とにかく心身疲れ果てたころ、窓の外を見るとオーロラが出ていて、窓を開けて1枚だけ試し撮り。外に出て写真を上手にとりたいが、とても眠さには勝てず暖かいベッドへ吸い込まれる。 

・3日目 3月11日(水) 人工オーロラ発生実験2(途中でキャンセル)。朝マイナス14度。晴れ。

昨日のことをメモする朝7時。時差ボケが治ったらしい。今日の作業目標は、データを吸い出して詳細な画像解析するのと、カメラの姿勢の微調整を済ませて赤フィルタを付けてみるのと、2点である。それからデジカメでも人工オーロラを狙えるかもしれない。朝の雪が青空に舞う。午前中、観測小屋に走り、昨晩のデータコピーを仕掛け、カメラ姿勢の微調整を済ませてフィルターをセットし、イルカの三脚と延長ケーブルを借りてデジカメ観測の準備を済ませた。今日は寒い。部屋で画像解析をしながらランチ。画像処理に、かなり時間がかかっている。プログラムを仕掛けて、ケボの敷地を散歩がてら車の様子を見てきた。本日のデータ解析の結論としては、、、なんと人工オーロラのシグナルあり、と出た。キター。しかし、かなり丁寧に背景を差し引く処理が必要。今晩はベターなデータを取れるよう、がんばります。午後3時半。快晴。もう少しで、また実験が始まる。ちょっと観測小屋のほうの荷物を整理してくる。観測小屋はPekolaと呼ばれている。かわいい。この観測所を作った人がPeKoと呼ばれていたことにちなんでいて、一番古い小屋らしい。トロムソは雪らしいが、とにかく人工オーロラを出してくれるらしい。いまになって、まわりの人との服装の違いに気づいたが、帽子やスノーブーツなどを持ってくるのを忘れてた。ディナーはチキンカレー、うまい。電離圏が突然崩壊したから、たぶん今日は無理だとの連絡。念のため、待機。19時、今日の人工オーロラはキャンセル。なんとX2クラスフレアが発生中。火球とオーロラのムービー撮影。このとき、トロムソ上空のオーロラを横から400fpsでも撮影した。

・4日目 3月12日(木) 人工オーロラ発生実験3、晴れ。マイナス3度。

時差ボケが完全に治り、朝起きるのがつらくなってきた。今日から後半戦。午前中は、朝9時から、ひき続き初日のデータ解析に取り組む。更なる詳細な解析を幾つか試した結果、なんと薄雲が何度も視野を通過していて、まともなデータにならないことが判明。フォトンを稼ぐためにフィルタをつけなかったのが裏目に出たか。これが午後3時。そして空を見れば美しい薄雲出てますが、美しいですが、夕方には完全に消えてくれることを祈ります。夕方、晴れてきた。雪の坂道を駆けあがり、デジカメサポート観測を屋外にスタンバイ。これが地味に寒い。電離圏が弱くてオーロラが作れない!ということで1640 UTには一旦実験を中断したとマイクからの連絡。まだ空が明るすぎて私のほうデータ撮れていない。それから1800 UT(夜8時)まで待機して再会することなく終了。とても疲れて夜9時ごろに就寝。明日と明後日がある。

・5日目 3月13日(金) 人工オーロラ発生実験4、晴れ。マイナス6度。

朝6時起き。スッキリ。ログを書く。今日は、夕方の観測に備えて、これまでのデータをダブルコピーして、すぐにシグナルを確認できるような解析プログラムを作る。午前中、バックアップ作業を終わらせ、宿代を支払い、人工オーロラ専用の観測プログラムを書き終えた。今は午後1時半。べったりと曇っている。晴れてくれ!解析プログラムはこれから、まったりと作ってみる。その前に、明日は部屋を移動しないといけないということで、いったん荷造りをする。夕方になって晴れてきた。ノルウェーのマイクと連絡をとりあい観測開始。1815-1830 UTだけ念のため低ノイズ100 fpsモードで。それ以外1700-1900 UTは、同じ200 fpsモードで観測。1815 UT以降は、本物の緑のオーロラが見えてきたのをデジカメで確認。1900 UTになり、部屋に戻る。力尽きた。オーロラの夢を見た。

・6日目 3月14日(土) 人工オーロラ発生実験5、晴れ。ゼロ度くらい。雪解けが屋根からぽつぽつと。風が強い。

朝6時起き。ペコラに走りデータを回収して部屋に戻り、さっそく画像処理スタート。朝9時の朝食前に初期解析を終えた。平均画像では人工オーロラが映っているようには見えない。これは非常に残念。デノイズ処理で何か見えてくる可能性はあるが、もうパターンとして確認するのは出来ないので、このデータでは当初の狙いの電子拡散スピード測定は難しいだろう。もしかすると昨晩は十分に明るい人工オーロラが出なかったのかもしれないが、とにかく今晩のラストチャンスはどうするかと悩みながら朝食へ。それから別な建物のほうへ部屋を移動。今晩だけニックと相部屋ということです。荷物を運ぶ間、スキーで移動中のイルカとすれ違った。場所を変えてデータ解析を続ける。パソコンのディスプレイがパチパチっと真っ白になることが増えてきた。頼むから、もう少し持ってください。4月にメインのPCを買いますから。そして超詳細な解析の結果、何かしら人工オーロラ的なシグナル(でも怪しい)を得たところで、遅いランチへ。解析結果を送ったマイクから連絡が来て、こんな高速サンプリング誰もやったことないので今は考え付く限りの策を試していくほかない、とのアドバイス。粘ってデータを見続けていると、本物のオーロラだと同じセッティングで400 fpsでも撮れていたことが判明。今は午後4時半のディナー前。明るいうちに、重たいスーツケースを車に運んできた。あとは観測して、寝て、朝5時に起きて、観測器を解体&箱詰めして、空港へ。(たぶん日記おわり)