オーロラ3Dプロジェクトまとめ

2013年08月04日 14:38

オーロラ3Dプロジェクト初の科学論文の出版が決まったことを受けまして、また私の東工大時代が6月一杯で終わったことも重なり、ここでいったんオーロラ3Dプロジェクトについて文章で整理しておきます。この4年間に何が起きていたのか自分が前後関係など思い出すための記録を兼ねています。熱がこもって長文です。

 

1.はじまり

オーロラ3Dプロジェクトは2009年7月に私が理研を離れ、8月から東工大に着任してから作ってきたプロジェクトです。きっかけは理研時代のボス戎崎さんの「オーロラも立体撮影してドーム投影できるかなあ?」という一言でした。たぶん自明ではないし面白そうだからやってみようと思い立ちまして、ニコンのデジタル一眼レフD90を2台購入し、三脚や魚眼レンズも買いそろえ、一眼レフカメラを触るのも初めてという恐るべき状態からスタートしました。東工大の屋上で寺澤研の大学院生の小尾くんと永田さんに手伝ってもらって夕暮れの雲を撮影してみたり、宮本さんと九十九里浜へ行って流星を撮影したりと、本業の研究の合間に気晴らしとして何度か実験を繰り返していました。カメラのパソコン制御はしてなかったので、暑い夏の東工大構内を走り回り20年ぶりとかの階段ダッシュで微調整を繰り返したり、科学技術館の屋上カメラが電池切れになったり、九十九里浜では寒すぎるし雨が降ってくる、という感じで多くのトラブルをひととおり経験しました。全天周映像作りとドーム投影については、理研時代の同僚で、シンラドームを作られた高幣さんと一緒に度々夜な夜なシンラドームに閉じこもり、新しく撮ってきた映像を使って実験を繰り返していました。そしていよいよその冬、2010年1月にアラスカ大学のポーカーフラット実験場で、東北大の坂野井さんと最先端研究として取り組み始めたオーロラの高速撮像実験を無事に終えた最終日、名古屋大学の三好さん、東北大学の八重樫さんと一緒に世界初の全天周立体オーロラの撮影に成功しました。どう撮影してみたかというと、もう単純に気合です。片方のカメラは自動でシャッターを切るようにレリーズを設定してポーカーに置き去りにし、もう片方のカメラを持ってトラックで数十分、真っ暗な雪山を走って、三好さんに時計を読んでもらいながら手動で15秒おきにシャッターを切る、という作業でマイナス30度の夜に1時間くらい粘りました。寒くて眠くて、それくらいが限界でした。そして早朝の帰り道でパンクするというトラブルも経験できました。こういうのはマジ大変だわということで、のちのちロボットを作ることになるわけで。。

 

2.プロジェクト始動

2010年も春めいてきたころ、世界初の立体オーロラ映像を、星の位置合わせなどを手動で作業しながら喜んでいると、秋の実験段階で申請していた放送文化基金の助成金を頂けるという電話がかかってきました。たまたま映画アバターの3D元年だったという強運です。これが公式の「オーロラ3Dプロジェクト」のはじまりです。設立メンバーは、片岡、三好さん、高幣さん。2010年3月から、2年間援助して頂きました。東北大学の後輩でウェブデザイナーとして独立していたオノリナに久しぶりに連絡をとり、ツイッターやユーチューブをうまく利用したウェブサイトを作りたいという希望を伝えて打ち合わせを繰り返し、2010年6月にaurora3d.jpを開設しました。ローラちゃんや、太陽風などのイラストでウェブサイトを完璧に飾ってくれたイラストレーターの川添むつみさんとも、このときからの付き合いになります。オーロラ3Dプロジェクトの基盤がこうして出来ました。そして科学技術館の科学ライブショー「ユニバース」の案内役として、オーロラ3Dプロジェクトで作っていく実験段階の最新ドーム映像を、定期的にライブショーを通して親子向けに見せていく、ということが始まりました。ぶっきらぼうな私を案内役に誘ってくれたのは、当時のユニバースの指揮をとっていた半田さんです。半田さんはいま鹿児島大学の教授になられて、「ヤマト」で有名になっている、ときの人です。そしてユニバースの設立者が理研ボスの戎崎さんという強力なコネクションがありました。科学技術館のスタッフ、特に松浦さんと藤繁さんには何度も何度も無茶を言ってご迷惑かけました。極めつけは、子供を相手にやりあう案内役だというのに、ぼそぼそと何を発言しているかわからない最悪の案内役としての私に、テンションを100倍くらいは上げるようきっちり注意してくれた大学生アシスタント軍団ちもんずとの付き合いも、ここがスタートとなりました。

 

マスコットのローラちゃん

 

3.プロジェクト運用

2010年暮れからの本格始動の撮影第1弾では、まずパソコン遠隔操作を導入し、現地スタッフのドンとブライアン、そしてなぜかJAXA浅村さんの助けも借りてオーロラ撮影専用ロボット「ピーアイ2」を作り、などなど詳しい開発記録がaurora3d.jpに残っています。Nikonから特別にカメラ機材提供をして頂きまして、この第1段ではD3sを2台使わせて頂きました。(そして最後はシャッター切りすぎて2台とも壊して返却するという・・・。Nikonの皆様、本当にすいませんでした。)2010年の12月には全国一斉にオーロラ関連科学のサイエンスカフェをやるという「全国オーロラ講演会」という大きなアウトリーチ企画を実行しました。全国たくさんの研究者が協力してくれました。このとき東北大学で大きなサイエンスカフェを中心になって企画してくれた藤原さんは、いまは成蹊大学の教授です。もちろん拠点はシンラドームですが、プラネタリウムで見られる美しいオーロラ映像を、かなりたくさん(合計で1000人くらい)の方に楽しんでもらえたと思っています。そして2011年の春の学会で研究者へも活動を宣伝しようと、aurora3d.jpを大幅リニューアルしました。このときから、太陽風オーロラ予報シミュレーションを導入するため、理研の塩田さんにオーロラ3Dプロジェクトに参入して頂きました。いま塩田さんは名古屋大学に異動されて、この予報シミュレーションはスサノオ計画という新計画に進化しつつあります。2011年のクリスマス前後に企画した「オーロラ講演会2011」では、高幣さんの新作ドーム投影ソフト・アマテラスプレイヤーを全国各地で使ってオーロラをあらゆる形で見せていく、という壮大な投影実験になりました。特に、震災ボランティアで活動されていた「ななわ」に協力し、陸前高田でオーロラ上映したことが強く印象に残っています。銀座のギャラリーART FOR THOUGHTの山際さんと出会い、天井をオーロラにする特殊な投影実験も楽しい思い出です。2011年暮れからの撮影第2弾で一番強く印象に残っているのは2011年10月末のNHK「宇宙の渚」アラスカロケです。ディレクターの石井さん、カメラマンの小迫さんのおかげで新種のオーロラを発見しました(論文1)。その後オーロラ3Dプロジェクトを現地で支えて頂いたアラスカ大学の中井さんと出会ったのもこのときでした。中井さんはいま名古屋大学に異動されています。この第2弾ではNikonからD3xを2台、提供して頂きました。また、2012年の1月には私のツイッター「日本でオーロラ」発言炎上、など記憶に新しい事件が度々ありました。2012年春には、情通機構の坂口さんがaurora3d.jp姉妹サイトを作りオーロラ予報を始め、安達さんデザインの「オーロラカレンダー」も完成しました。オーロラカレンダーの写真は、いまはオーロラ写真家となられた八重樫さんが撮影。私は2012年6月にユニバースの案内役を卒業し、2012年11月からはウェザーニューズの番組に何度か出演させて頂きました。東京デザイナーズウィークの巨大ドームでは谷崎テトラさんに音楽をmixして頂いたドーム映像作品Northern Lights2010-2012を発表しました。

 

4.プロジェクト仕上げ

2012年暮れの撮影第3弾では、Nikonから提供して頂いたD4を2台導入し、伝説の魚眼レンズを一台はNikonから、もう一台は名古屋大学の塩川さんからお借りして、東大(今はムサビ)の宮原、名古屋の重松さん、東大の久保さんほかと、設置作業に同行して頂きました。いま南極にいる福田さんにも準備を手伝ってもらいました。そして、東工大の奥富先生、田中さん、東大の山下さんという工学部の魚眼ステレオ測定の専門家のアドバイスも受けて、満を持しての撮影実験となりました。東大の山下さんは私が出会ったときは静岡大の所属で、その学生の森さんがオーロラ全天周映像のための星の位置合わせを自動化するプログラムを作ってくれました(論文2)。これで立体ドーム映像が各段に作りやすくなったのと、投影が一段と美しいものになりました。そして、オーロラロッジの熊谷さんの協力で、ポーカーフラット実験場とは8km離れた地点に「ピーアイ2」を設置させて頂き、とうとう1シーズンの連続撮影に成功しました。この第3弾で得られた映像は、シンラドームに立体投影して観察すると驚くべき美しさで、オーロラの高度分布がかなり正確に出せるだろうという確信を得ることができました。そうそう、ヘッドマウントディスプレイで赤祖父先生にも見て頂き、アドバイスをもらいました。そして実際に高度分布を求めてみたものが今回の論文の研究成果になります。たとえば背の高いオーロラは高度120kmから400kmまで幅広く分布しており、脈動オーロラは90-100kmという一段低い高度で発光しているという結果が出てきます。なんとデジカメを使った新しい高度推定手法が生み出されたのです(論文3)。いまは名古屋大学の大学院生の重松さんが、横軸に時間、縦軸に発光高度をとって、この4年間、階層的な時間スケール(日単位、月単位、年単位)でオーロラの高さがどう変化するか調べて修士論文を書いています。オーロラ3Dプロジェクトのはじまりから考えてみると、とてつもない進化です。と、ここまで書いてみて気付きましたが、まる4年が経ったオーロラ3Dプロジェクトは私の東工大オーロラ生活そのものでした。このように多くの人に助けられてきたおかげで本当に大成功だったと思います。昨日の極地研究所一般公開では、こういうのはとても久しぶりな感じがしたのですが、大人から子供まで数百人の方々に気軽に立体メガネで立体オーロラを見て頂きました。楽しかった。進化した新プロジェクトを近々始動させる予定です。お楽しみに!