アラスカ会議とオーロラ観測回収作業
イタリアのミラノにいます。エイプリルフール的な言葉は何も思い浮かびませんが、昨晩は本当にヒョウが降ってきました。フランスのオーロラ会議に向かう途中です。先週は、アラスカ大学主催のオーロラ会議に参加し、一石二鳥で3Dオーロラ観測のデータ回収と撤収作業をしてきました。明日から一段とマニアックなオーロラ会議に突入する前に、先週の様子の詳細を日記形式で自分用メモを兼ねて書き残します。
昼はオーロラと放射線帯の会議、夜は山へ行ってオーロラ撮影実験、という流れが基本で、とにかく仮眠続きでした。収穫はいろいろありましたが、ばく然と感じたメモしておきたいこととして、人工衛星から地球規模で捉えるオーロラの大規模な変化が比較的単純なのに対し、地上から見るオーロラやメソスケールのプラズマ現象は多彩で複雑なので、そのギャップを埋めることが脈動オーロラ、オーロラ爆発、放射線帯、磁気嵐を統一的に理解するコツになることを、オーロラを見ながら実感したことは、大きな収穫のひとつです。双極子磁場で発動するオーロラと捕捉粒子の粒子加速の関係は、地球の過去、現在、未来でどう変化するのか、突破口も見えてきそうです。まあ、そういう感じで明日からフランスの会議に臨もうかと。
1日目、3月24日(日)、フェアバンクス空港に夕方到着。レンタカーはトヨタのセレナAWD。夕食は気合で車を走らせてシルバーガルチへ。夜9時まで明るい。時差ボケで朝2時に起きてしまい、朝6時半の朝食を済ませて仮眠。
2日目、3月25日(月)曇り&雪。午前10時半から会議。会場はダウンタウンのウェストマークホテルの一室。参加者は100人弱だと思う。受付で配ってくれたギフトバックがフルーツだらけ。Rの示したdipolarization frontのTHEMISデータが思っていたより不連続的で、太陽風のstream interfaceと似ていて印象的だった。午後3時頃、氷の彫刻祭りを見に行くというオフィシャルな遠足をスキップして、サブウェイで食料をゲットしてからオーロラロッジのロボ撤収とデータ回収作業へ。ここ数日で積った雪の中からロボを掘り起こすのに必死で、三好さんと2人でヒーヒー息切れしながらセレナにロボを詰め込んだ。ロッジでコーヒーをもらって休ませてもらいながらオーナーのKさんと話していたところにNさん達が登場。同僚の方とポーカーへ入り、二つ目のカメラ撤収とデータ回収作業を早々に済ませて、植生調査のタワーを見学。ダウンタウンの大きめタイ料理屋でディナー。早めにホテルに戻って、撤収したデータのコピー作成開始など。時差ボケ治らず朝2時に起きてしまい、自分の発表資料を微調整する作業など済ませて、朝6時半の朝食を済ませて仮眠。
3日目、3月26日(火)曇りのち晴れ、午前11時からサブストームオンセットに関する話がいくつか。経度方向に細い低エントロピー・フラックスロープの侵入とPBIの関係性がわからない。単にgrowth phaseだという人もいる。様々な外部擾乱に対して、内部擾乱が地球近傍の電流シートを不安定にさせる効果を見積りたい。オンセットのAlfvenicオーロラの話が一瞬出た。電離圏ではオンセットで低密度領域が出現することが明瞭になってきた。ハラング不連続のself-consistentなMI結合シミュレーションから、新しく発見されてきたこれらの観測結果を無理なく説明することが当面の目標のように思う。ランチは、NASAの研究者たちと、ホテルから歩いて行ける小さめタイ料理屋へ。午後はオーロラ高速撮像について、自分とアラスカ大スタッフDが連続で最新映像など紹介。コーラスの非線形な変化を見てると思うとのコメントほか、新たな衛星地上観測のやり方などについて議論した。高速撮像ライバルのM&Rから高品質のデータを幾つか見せてもらった。Gabrielse2012, Birn2012SSRには、サブストームのinjectionが放射線帯のソースだろうと書かれているらしいので読むこと。会議の最後の最後、ホテルスタッフのミスか、ホタルの光的な音楽が流れ始め、Kさんかまわず最後のスライドを説明しているうちに音楽だけがどんどん盛り上がり、むやみに感動的な印象になってこの日の会議が終了。午後7時ごろ、チャタニカへ先回りで移動して会議の公式パーティーに参加。そのままポーカーへ。新カメラのテストのため、夜中1時にはオーロラロッジへ移動して新しい立体撮影の実験。太陽風的には何度もオーロラ爆発すると思っていたが、どうもSMCだったようで派手な爆発には至らず、それはそれで貴重な体験になった。春なのにマイナス30度くらいで寒かった。満月だった。朝6時半の朝食を済ませて仮眠。
4日目、3月27日(水)晴れ、午前11時からARTHEMISの話で、新しいデータが取れ始めているdistant tailの話題が新鮮に感じた。Byzの回転によって尾が千切れてサブストームをトリガーするか、との問いには否定的な答え。昼のRxが複雑で、そう単純にはならない。BorovskyがVz擾乱で尾が千切れる論文を書いていたことを思い出した。Gさんが尾のRシミュレーションを分析していて、激しい地磁気変動と関連しているのはpersistent multiple Rxであり、large scale plasmoid(flux rope)は細いlocalized Rxである、ここは太陽と随分違う点かもしれない(Yに狭い特長を持ちflux ropeが次第に傾いていく)。distant Rxからのflowの衝突がトリガーになっていたりしないかとの問いには、はっきりしない答え。新しいキューブサットで、たった$800KでSEPとRBの粒子観測に成功したというLASPの試みは、話し方も情熱的で刺激的。ランチはアラスカ大学近くのタイ料理屋パッタイへ。後半は、昔懐かしのforeshock関連の話が続いていたが、イベントが大量に増えたようだ。Omidi2012、Hartinger2012という論文では、なんでもforeshockから内部磁気圏への粒子侵入?を論じているらしい。Lのグローバルハイブリットシミュレーションは夜側に応用することで脈動オーロラやサブストームの謎を解くことに大きな貢献がありそうで、一緒に研究したいと思った。夜7時ごろに会議終了後、チャタニカへ走ってドレッジバーガーを食べ、ポーカーでさらなる撮影実験と最後の撤収作業。外はマイナス25度。オーロラ爆発後、北の地平線から天頂へ、ぐいぐいと細く流れ込んでくるnorth-south stremerの異様な姿を目撃し、その内部磁気圏への影響について研究しなければならないと思った。午前2時過ぎ、ポーカーにオーロラ見物に来ていた研究者たちが帰り支度をしている中、なんとも地味な脈動オーロラにハイテンションでシャッターを切り続ける三好さん。全ての機材を撤収してダウンタウンに戻ったのは朝の4時ごろ。朝6時半の朝食を済ませて仮眠。
5日目、3月28日(木)晴れ、午前11時から放射線帯の新データ。Tさんのモデル計算結果によると、まるで非線形加速が不要なほど、観測を定量的に説明できるイベントがあるようだ。RBSPの新データ解析結果では、直近の3月17日磁気嵐がデータが揃っていて、10keVよりもはるかにエネルギーの高いプロトンフラックスの時間変化を見てDstとの違いに驚いていたようだが、積分してenergy densityを計算することで直接的な比較をし、さらに酸素イオンの役割まで考察するとよいと思う。RBロスは磁気圏境界のshadowingでよいだろうとしたDT論文については、過去のGreenの結果をきっちり考察すると説得力が出てくると思う。午後2時半になり、ランチをサブウェイで一瞬で済ませて、アラスカ大学のGIとIARCの知り合いに会いに行ってみたところ、なんと偶然にも赤祖父先生と会うことができた。すれ違いで日本にいるとばかり思っていたので驚きました。話を聞きたかった最新の赤祖父論文のみならず、1964年のオーロラ爆発、リコネクション、磁気圏尾の発見が重なった偶然、「GIはなぜ出来たか」、「オーロラに沿って飛ぶ」などなど話を聞いてテンションMAX状態で、会議の会場に戻ったのは午後5時すぎ。7時前には会議が終わり、大量のシャケが配られていた。はじめに大量のフルーツが配られ、さいごに大量のシャケが配られて終わる会議は、これが最初で最後だろう。参加者にひととおり別れの握手して、ホテルのバーで三好さんと「反省会」。荷造りを済ませて深夜のフェアバンクス空港へ。新計画のデータも詳しく見られたし、久しぶりに会う研究者や、初めて話す研究者も多く、毎日が充実していたようで、あっと言う間の5日間だった。食べ物的にまとめると、タイ料理3回、サブウェイ2回、チャタニカ2回、シルバーガルチ1回。今回のアラスカ滞在はバーガーやアンバー依存性が低かったため、たぶん少し痩せたと思う。