赤祖父先生オーロラ講演まとめ

2013年05月30日 19:08

名古屋大学の太陽地球環境研究所で開催された赤祖父先生の特別セミナーに参加しました。まさかのシーラカンスのスライドを使ったジョークから始まりまして「いまから私が言うことが正しいとは限りません。サブストームとはどういうものか問題提起として役立ててほしい。」という趣旨で一貫した1時間半のトークでした。もちろんオーロラの常識を変えたサブストームの発見者で、シーラカンスを倒せるほど人気があるレジェンドが語るわけですから、部屋は満員御礼です。そのときのメモをまとめて文章にしておこうかと。物理的な話の詳細について知りたい専門の方々は、赤祖父先生が既にAnn Geo論文を出版されていますので、そちらを参照してください。

 

いきなり細かいことから書きますが、恥ずかしながら私はまず、オーロラのブレイクアップについて誤解していたことを認識しました。なんと写真のオーロラ、朝方に見られるバラバラのオーロラがブレイクアップなのでした。いまのオーロラの研究者たちは、オンセットとか爆発相の激しいオーロラをテキトーにブレイクアップと言ったりしているので、そこを正して頂きました。地球規模に静かに暗く広がるオーロラの輪の状態から、オーロラの爆発的なエネルギー解放が真夜中付近から急激に起こり、そしてほとぼりが冷めるとバラバラになったオーロラが明け方に流れていく、という一連の流れ「=共通点のようなもの」が、赤祖父先生の50年前の研究によって、オーロラのサブストームと名付けられました。

 

これがオーロラのブレイクアップ。

 

さて、オーロラの爆発的なエネルギー解放に至る直前には、地球の磁気バリア「磁気圏」にエネルギーが一時的に貯まっていく段階「成長相」があります。なぜそんな成長相なんてものがあるのか?というのが問題提起その1でした。回答としては、太陽風から入力される電磁エネルギーは通常、磁気圏と電離圏をつなぐ電気回路を介して電離圏のジュール熱となって解消されているが、電離圏の電気伝導度が低い状態ではジュール熱として解消できるエネルギーに限界が出て、磁気圏側のプラズマ圧としてエネルギーが貯まってしまうと考える。そして「10の22乗erg」ほどのエネルギーが磁気圏に貯まると突然で無理やりのエネルギー解放が始まるが、いったん爆発が始まれば電離圏の電気伝導度が非常に高い状態がオーロラ粒子によって維持され、スムーズに電離圏が加熱されることでエネルギー解放が出来ている。このジュール加熱として電離圏に捨てられるエネルギー量は、どうも磁気圏の尾部に蓄えられたエネルギー10^21ergよりも一桁大きい。これは尾部リコネクションがサブストームのエネルギー源だと思っている場合に深刻な問題である。

 

続いて問題提起その2は「爆発相」について。なぜ1時間程度で爆発的に開放されて終わるのか。これの回答としては、電離圏で捨てる限界の毎秒3x10^18 ergで、貯まった10^22ergを使い切るためだと考える。そもそも10^22ergというのが何で制限された値なのか、という疑問が参加者の中でも自然発生して、あとで関連する質問も出ました。電流シートのプラズマ不安定でMHDが壊れるのが、10^22erg程度のときらしいという回答だった。もっと簡単に10^22ergを出せそうに思って、私もその場で計算してみた。静止軌道の100nTの磁場を基準に磁気圧を計算し、静止軌道を包む球の体積を掛け算すれば10^22ergのオーダーになる。静止軌道に磁束管があったとして、その磁束管にプラズマを思いっきり貯めこんだとすると、その限界は磁束管の磁気圧だろう。上限値なわけで、磁場の弱い星や強い星で検証できるかもしれない。そんな研究してみようと思っています。

 

続いて問題提起その3は「発電機」について。磁気圏にエネルギーが貯まるというだけではサブストームの説明として不十分で、電気回路の電池に対応する仕組みがわからないことには肝心なことを説明したことになっていないようである。ここはLuiの最近のクラスター観測論文を引用し、MHDが壊れて動径方向に電荷分離することが電場生成の発電機となるため、電離圏のジェット電流のセンスも含めて総合的に納得が行くと考える。客席からは、それは違うのではないかと意見が出た。このほか、太陽風の磁場が北向きになるとサブストームがトリガーされること、爆発するとオーロラが極方向へ拡大すること、などについても問題提起がなされた。議論の時間がいくらあっても足りない熱を持ったままセミナーが終了。

 

セミナーが終わり場所を移動して、赤祖父先生に3Dオーロラの出来立てほやほやの試作品をヘッドマウントディスプレイで見て頂きました。研究所の方々にもひととおり見て頂きましたが、桁違いに長い時間3Dオーロラを観察されていたのは赤祖父先生でした。さすがです。現地アラスカでもカメラの設置状況など詳しく報告していたので、完成した迫力映像をたっぷり見て頂いて、「おめでとう!」と言って頂きました^^かっこいい論文に仕上げられるようがんばります。